最期・2

管巻き

その本人に、あの時自分で電話したのか聞いても、遠い記憶の彼方、覚えてもいまい。会話にはならなかったから、只勝手に喋って、向こうの言う事に相槌を打っただけだ。まだ俺が息子であって、その名前迄は覚えている様だったが。

恐らく医者が、現在の状況を見て、掛ける様に手配してくれたのではないかと思う。今の状態で携帯を扱うのは恐らく困難だろう。もしかしたら、自分の死を悟って、最初で最後の電話をして来たのかも知れないが。

今回は流石に本当に最期だろう。ステージ4と診断されてから何年生きて来たんだ、と言う所ではある。現在の医療は進んでいるんだな、その段階であってもこれだけ延命出来る。

もう十分だろう。末期癌の苦しみも、これだけ記憶がなければ楽な物だ。実際本人は、自分はどこも悪くない、家に留まる、と言い張っていたそうだ。

もう死期を悟ったのだろう。それを病院では嫌だったのかもな。確かにあの白い壁に囲まれた異常な迄の清浄で静謐な無機質な空間は、死後の世界を想像させる気もする。あそこにいるだけでもう既に死んでいる様な錯覚を起こす。

退院迄持ったら、帰ろう。家で末期の酒を交わして来るか。今回の電話が最期の会話と言うのもな。実際にはもう少し会話は出来ると言う事だ。とは言え、癌が進行中である以上、本当に会話になるかどうか。ま、会うだけでも。(終)

あの島の向こうへ。

コメント

  1. ミチヲ より:

    やっぱり東北旅行の時に寄るべきでしたね!
    親父さんとは会ってみたかったんですが

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